AIで見積書を作成することはできます。ただし、AIに任せてよいのは「下書き」と「項目の整理・文面づくり」までで、金額と条件の最終確認は人が行うのが安全な進め方です。
この記事では、ChatGPTなどの生成AIを使って、中小企業が見積書をつくる手順を、そのまま使えるプロンプト(AIへの指示文)の例とあわせて解説します。AIが得意なこと、苦手なこと、情報漏えいを防ぐ注意点も整理しました。
AIで見積書は作れる?できることと、できないこと
「AIを使えば、見積書が自動でできあがる」というイメージを持つ方もいますが、実際には少し違います。ChatGPTのような生成AI(文章をつくるAI)は、文章や表の「下書き」をつくることは得意ですが、自社の単価や原価、値引きの考え方を知っているわけではありません。
そのため、AIだけで、正しい金額の見積書が完成するわけではありません。AIの得意なところと、人が受け持つところを分けて考えると、無理なく使えます。
AIが得意なこと
- 見積書に必要な項目の洗い出しと、並べ方の整理
- メモや打ち合わせの内容から、件名・明細の文面を整える作業
- 備考欄・有効期限・支払条件などの、定型文の下書き
- 抜けや表記のゆれ(「御見積」と「お見積り」など)のチェック
AIが苦手なこと(人が受け持つこと)
- 自社の単価・原価・利益の判断(AIは自社の数字を知りません)
- 金額の計算や、消費税・端数の処理(計算を間違えることがあります)
- 取引先との関係を踏まえた、値引きや条件の最終判断
- 図面や現場の状況を読み取って、正確な数量を出すこと

この線引きを先に決めておくと、「AIに任せたら金額が違っていた」というトラブルを防げます。迷ったときは、「お金と約束に関わる部分は人が決める」と覚えておいてください。
AIで見積書を作成する手順(5ステップ)
ここからは、実際の進め方です。難しい設定は必要ありません。次の5つの順番で進めると、初めてでも迷いにくくなります。

ステップ1 AIに入力してよい情報を決める
最初にやることは、AIに入力する情報の線引きです。見積書には、取引先の名前、担当者名、単価、原価などが出てきます。これらをそのまま入力してよいかどうかは、会社のルールで決めておく必要があります。
迷う場合は、取引先の名前や担当者名を「A社」「担当者A」のように置き換えて、AIには品名・数量・条件だけを渡す方法が安全です。個人情報を含めるときの考え方は、後ほど詳しく説明します。
ステップ2 見積書に載せる項目を決める
次に、自社の見積書に必要な項目を決めます。見積書には法律で決まった一つの書式があるわけではなく、会社や業界ごとに少しずつ違います。一般的には、次のような項目を入れることが多いです。
- 宛名(取引先の会社名・担当者名)、見積番号、発行日
- 発行者(自社の名称・住所・連絡先)、担当者名
- 件名(何の見積かが分かる名前)
- 明細(品名・数量・単位・単価・金額)
- 小計、消費税、合計金額
- 有効期限、納期、支払条件
- 備考(前提条件、含まれないもの、変更時の扱いなど)
すでに使っている見積書の型があれば、その項目をそのまま書き出してください。これが、AIに渡す「型」になります。
ステップ3 AIに下書きを頼む
項目が決まったら、AIに下書きを頼みます。ポイントは、「前提」「材料」「出力の形」を分けて伝えることです。次の章で、そのまま使える指示文の例を紹介します。
ステップ4 人が計算と内容を確認する
AIが出した下書きは、必ず人が確認します。特に大切なのは、次の3点です。
- 数量×単価=金額になっているか(電卓や表計算ソフトで検算します)
- 小計・消費税・合計が合っているか(税率と端数の処理は自社のルールどおりか)
- 取引先名・日付・件名に、間違いや入れ忘れがないか
生成AIは、もっともらしい文章を出すのが得意な反面、計算を間違えたり、入力していない条件を勝手に補ったりすることがあります。数字は、AIの出力をそのまま信じず、必ず別の方法で確かめましょう。
ステップ5 取引先に出す前に、最終確認をする
最後に、取引先に出す前の確認です。金額だけでなく、有効期限、納期、支払条件、含まれないものといった「約束」にあたる部分を、担当者本人が読み直します。可能であれば、作成した人とは別の人が目を通すと、見落としが減ります。
そのまま使える、見積書づくりのプロンプト例
プロンプトとは、AIに出す指示文のことです。次の例は、[ ]の部分を自社の内容に置き換えるだけで使えます。取引先名などは、前の章のとおり、必要に応じて置き換えてください。
例1 見積書の項目を整理してもらう
[業種:例)ホームページ制作]の見積書に必要な項目を、一覧にしてください。
条件:
・見積書の上から下の順に並べる
・各項目に、書き方のヒントを一言で添える
・一般的な項目と、業種によって必要になる項目を分ける
例2 打ち合わせメモから、明細の文面を整えてもらう
金額は計算せず、「単価」と「金額」は空欄のままにしてください。
【メモ】
・[作業1:例)トップページの制作 1式]
・[作業2:例)スマートフォン対応 1式]
・[作業3:例)月1回の更新作業 12か月]
条件:専門用語はできるだけ使わず、取引先が読んで内容が分かる表現にする
この例のように、「金額は計算しないで」と先に伝えておくと、AIが勝手に数字をつくることを防げます。金額は、人が入力します。
例3 備考欄・有効期限などの定型文を考えてもらう
入れたい内容:
・見積の有効期限は[発行日から30日間]
・[内容が変わった場合は、あらためて見積をお出しする]
・[含まれないもの:例)素材の準備費用]
条件:丁寧だが、かたすぎない表現にする
例4 出来上がった見積書のチェックを頼む
確認してほしいこと:
・項目の抜けや、重複がないか
・表記のゆれ(「お見積り」「御見積」など)がないか
・分かりにくい表現がないか
金額の計算が合っているかは、確認しなくてかまいません(人が確認します)。
【見積書の文面】
[ここに貼り付け]
チェックを頼むときも、「計算は人が確認する」と伝えておくのがコツです。AIは、頼まれていないことまで手を出して、かえって混乱することがあるためです。
AIで見積書をつくるときの注意点
便利な反面、使い方を間違えると、トラブルにつながることもあります。特に注意したいのは、次の3つです。
注意点1 計算ミスと「思い込み」
先ほど触れたとおり、AIは計算を間違えることがあります。また、情報が足りないと、それらしい数字や条件を自分で補ってしまうことがあります。想定例を挙げます。
こうしたことを避けるため、AIには、材料にない金額や条件を入れないよう、はっきり指示しておくことが大切です。
注意点2 取引先の情報・社外の人に見せたくない情報を入れない
見積書には、取引先の情報や、自社の単価・原価といった、外に出したくない情報が含まれます。ChatGPTなどの外部サービスに入力する情報は、サービスを提供する会社に送られます。
OpenAIの公式ヘルプでは、ChatGPTの「Improve the model for everyone」という設定をオフにすると、新しい会話がモデルの学習に使われなくなると案内されています。
また、ChatGPT Businessなどの法人向けプランでは、初期設定で学習に使われないとされています(OpenAI「Data controls in ChatGPT」)。
ただし、設定をオフにしても、機密情報を入れてよいことにはなりません。社外秘にあたる情報は、入力しないのが原則です。迷う情報は、置き換えて入力するか、入力しないと決めておきましょう。
万が一、社外秘を入力してしまったときの初動対応は、別の記事で5つのステップにまとめています。
関連記事ChatGPTに社外秘を入力してしまったら|初動対応と線引き
注意点3 個人情報を含めるときは、特に慎重に
取引先の担当者名や連絡先など、個人情報にあたる情報を入力する場合は、さらに注意が必要です。個人情報保護委員会は、令和5年6月2日に、生成AIサービスの利用に関する注意喚起を公表しています。事業者向けの注意点として、主に次の2つが示されています。
- 個人情報を含むプロンプトを入力する場合は、特定された利用目的を達成するために必要な範囲内であることを十分に確認する
- あらかじめ本人の同意を得ずに個人データを含むプロンプトを入力し、応答結果の出力以外の目的で取り扱われる場合は、個人情報保護法に違反する可能性がある。その場合は、サービス提供事業者が、個人データを機械学習に利用しないことなどを十分に確認する
(出典:個人情報保護委員会「生成AIサービスの利用に関する注意喚起等について」)
見積書づくりでは、担当者の名前を「担当者A」に置き換えるなど、個人が特定できる形では入力しない運用にすると、リスクを下げられます。
作成した見積書の保管と、確認しておきたいこと
見積書を出したあとは、保管のルールも決めておきましょう。国税庁は、法人の場合、帳簿と、取引に関して作成・受領した書類を、確定申告書の提出期限の翌日から7年間保存するよう案内しています。書類の例としては、注文書、契約書、領収書などが挙げられています(国税庁「帳簿書類等の保存期間」)。
見積書をどこまで、どの期間保存するかは、会社の形態(法人・個人事業主)や取引の内容によって考え方が変わることがあります。取引の経緯を後から確認できるよう、見積書も保管しておくと安心です。具体的な扱いは、顧問の税理士さんに確認してください。
また、AIで作った見積書の元データ(どんな指示を出したか)も、あわせて残しておくと便利です。次回、似た案件の見積書をつくるときに、同じ指示文を使い回せます。
AIより、専用ツールや専門家が向いている場面
ここまで、ChatGPTなどの汎用的な生成AIで、見積書の下書きをつくる方法を紹介しました。ただし、次のような場面では、AIの下書きだけでは足りないことがあります。
- 図面から、数量や材料を拾って見積もる(建築・製造の積算など)
- 過去の数多くの見積データをもとに、金額を自動でそろえたい
- 見積から請求・発注まで、データを一続きで管理したい
こうした場合は、見積・積算に特化したツールや、業種向けのシステムが選択肢になります。実際に、製造業向けの見積作成ツールや、見積データを学習して候補を提示するシステムなども提供されています。ただし、ツールの機能や費用は製品ごとに大きく違うため、導入前に、公式サイトで最新の情報を確認してください。
まずは、ChatGPTなどで下書き・文面づくり・表記チェックから試して、それでも手間が残る部分を、専用ツールで補う。この順番なら、費用をかけすぎずに進められます。
見積書づくりに、AIを取り入れる進め方
最後に、会社にAIを取り入れるときの進め方をまとめます。いきなり全部の見積書をAIに任せようとすると、うまくいきません。次の順番がおすすめです。
- 1つの見積書で試す:いちばん定型的な見積書(内容が毎回ほぼ同じもの)で、下書きだけAIに頼む
- かかった時間と、直した箇所を記録する:どこでAIが間違えたかを、メモしておく
- 指示文を、会社のテンプレートにする:うまくいった指示文を保存して、誰でも使えるようにする
- 入力ルールを、紙1枚にまとめる:入れてよい情報・だめな情報を決めて、共有する
入力ルールの作り方は、生成AIの社内ルールの作り方の記事で、雛形つきで紹介しています。あわせて読むと、会社としての使い方が整理しやすくなります。
関連記事生成AIの社内ルールの作り方|中小企業向け・コピーして使える雛形つき
見積書以外にも、AIで下書きを楽にできる仕事はあります。たとえば、会議の記録づくりは、見積書と同じ「AIが下書き、人が仕上げる」の考え方で進められます。
関連記事AIで議事録を作成する方法|中小企業が時短できる3ステップと、確認すべき点
事務・営業・経理の中で、どの仕事からAIを試すとよいかを知りたい方は、こちらの記事も参考になります。
関連記事仕事でのAI活用|中小企業の事務・営業・経理で今日から試せる使い方
よくある質問
Q. AIで作った見積書を、そのまま取引先に出してもよいですか?
おすすめしません。AIの出力には、計算の間違いや、入力していない条件の補いが混ざることがあります。必ず人が、金額・有効期限・納期・支払条件を確認してから出してください。
Q. 見積書づくりに使うAIは、無料版でもよいですか?
下書きや文面づくりを試す程度であれば、無料のプランでも始められます。ただし、入力した内容がAIの学習に使われるかどうかは、プランや設定によって違います。取引先の情報や単価を扱う場合は、設定を確認し、入力する情報を絞ってください。
Q. 取引先の名前や金額は、AIに入力してもよいですか?
会社のルールによります。迷うときは、取引先名を「A社」に置き換えるなど、特定できない形にして入力する方法が安全です。個人情報を含む場合は、個人情報保護委員会の注意喚起も参考に、慎重に判断してください。
Q. AIは、見積金額そのものも決めてくれますか?
自社の原価や利益の考え方をAIは知らないため、金額の判断は人が行う必要があります。AIには、金額の根拠を整理する手伝い(項目の洗い出しや、比較の観点の整理)を頼む使い方が向いています。
Q. 小さな会社でも、AIで見積書づくりを効率化できますか?
できます。まずは、いちばん定型的な見積書の下書きと、備考欄などの定型文づくりから試してみてください。大がかりな仕組みを作らなくても、指示文を保存して使い回すだけで、手間は減らせます。
まとめ
AIで見積書を作成するときの要点を整理します。
- AIが得意なのは「下書き」「項目の整理」「文面づくり」「表記チェック」。金額と条件の最終判断は人が行う
- 手順は、①入力する情報を決める ②項目を決める ③AIに下書きを頼む ④人が計算と内容を確認する ⑤出す前に最終確認するの5つ
- 指示文には、「金額は計算しない」「材料にないことは書かない」と先に伝える
- 取引先の情報・単価・個人情報は、置き換える、または入力しない。設定も確認する
- 図面からの積算など、AIの下書きでは足りない場合は、専用ツールや専門家を検討する
AIは、見積書づくりの手間を減らす心強い道具ですが、約束とお金に関わる部分の責任は、人が持つものです。小さく試して、うまくいった指示文を会社の財産にしていくことが、無理のない進め方です。
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